「水槽の中のジョミ・観察日誌」その15
11月25日 火曜日 晴れ
しばらくろくに口もきかなかったジョミ。
ブルーがいなくなったショックから初めの数日は食事もとってくれず、ずいぶん心配した。
ポテトチップスの袋を見せてもそっぽを向いてふて寝。
ショックというより僕に対する態度から、意固地になってるように感じたので
食欲をそそる香りのぷんぷんする食べ物でジョミの気を引く作戦に出た。
食べさせたことのない物の方が食いしん坊のジョミの好奇心をそそるに違いない。
まずはたこ焼きを水槽の前で見せびらかして食べてみた。
ソースの上で踊るかつおぶしは、その香りと共に視覚効果でも食欲に訴えるものがある。
ジョミは水槽の中でごろんと寝返りを打ち、こちらをちらっと見るとまた背を向けてしまった。
たこ焼き作戦失敗。
次の日はおやつの焼き芋。甘いにおいをもわもわ漂わせながらまた水槽の前で食べてみた。
ジョミは寝転んだまま、じーっとこっちを見ていたが結局浮かんではこなかった。
焼き芋作戦も失敗。
じゃが芋が好きだからさつま芋にも興味持つかな…と思ったんだけど…。
あ、ジョミは甘いものはあんまり食べなかったな…。
その次の日の晩御飯は鶏のから揚げだった。
僕は台所で母さんが揚げたばっかりのアツアツをこっそり二個ほど掠め取ると、キッチンペーパーに包んで部屋に持って行った。
食欲をそそる香りが水槽の周りに充満する。
水槽の底に突っ伏していたジョミが、むく、と起き上がりこっちを見た。
「ジョミ、これ食べたことないだろ?美味しいんだぞ」
僕は揚げたての唐揚げにゆっくりかぶりついた。
ジョミの目が大きく見開かれる。
ぐっと歯を立てると香ばしくカリっとした衣の中からアツアツの肉汁がじゅっとこぼれた。
「うわあちあちあちあちっ…はふ…っ」
あふれる肉汁で口の中をちょっと火傷した。でも美味い。はふはふしながらゆっくり噛むと、サクサクと衣の砕ける音とジューシーな肉の味が口の中いっぱいに広がった。
ジョミがゴクリと唾を飲む。
「…美味しいなあ……いらないなら僕が食べちゃうけど、いいかなジョミ?」
そう言って残りの一個を食べようとした時、ジョミがふらふらと水面に浮き上がってきた。
「キースだめっ。それジョミのっ」
ぷかりと出てきた顔の前に唐揚げを差し出してやるとジョミは久しぶりに目をキラキラさせた。
普段ならイルカのようにジャンプして僕の手から食べ物をかっさらって行くのだが、さすがに数日の断食で弱っているのかそこまではしなかった。
「ゆっくり食べろよ。熱いからな」
ふうふうと少し息をかけて冷ましてやってから口の近くまで下ろしてやると、ジョミは唐揚げにぱくりと食らいつき、満足そうに笑った。
本当に久しぶりにジョミの笑顔。
よかった…
このまま何にも食べないで弱って死んじゃったらどうしようと本気で心配した……
気がつくと僕は笑っていた。一心不乱に唐揚げをほおばるジョミを眺めながら。
部屋の外から、ご飯よ、と僕を呼ぶ母さんの声。
わかったすぐ行くよ、と返事して、僕はジョミが綺麗に食べ終わるまで水槽の前でじっと待った。
何日も食べずにいたため小さくなった胃袋は、大きな唐揚げ一個でどうやらいっぱいになったらしい。
ジョミはお腹をさすりながら幸せそうな顔で水底に沈んでいった。
胸がじんわりあったかくなる。
唐揚げ作ってくれた母さんに御礼言わなきゃ…
そうだ、これまで…僕もジョミのことで頭がいっぱいで気持ちに余裕がなくて、冷たく当たってた…。
ちゃんと謝ろう。
ジョミ復活のきざし♪
表紙カラー絵は下塗りまで完了しました。影付け頑張ります。
しばらくろくに口もきかなかったジョミ。
ブルーがいなくなったショックから初めの数日は食事もとってくれず、ずいぶん心配した。
ポテトチップスの袋を見せてもそっぽを向いてふて寝。
ショックというより僕に対する態度から、意固地になってるように感じたので
食欲をそそる香りのぷんぷんする食べ物でジョミの気を引く作戦に出た。
食べさせたことのない物の方が食いしん坊のジョミの好奇心をそそるに違いない。
まずはたこ焼きを水槽の前で見せびらかして食べてみた。
ソースの上で踊るかつおぶしは、その香りと共に視覚効果でも食欲に訴えるものがある。
ジョミは水槽の中でごろんと寝返りを打ち、こちらをちらっと見るとまた背を向けてしまった。
たこ焼き作戦失敗。
次の日はおやつの焼き芋。甘いにおいをもわもわ漂わせながらまた水槽の前で食べてみた。
ジョミは寝転んだまま、じーっとこっちを見ていたが結局浮かんではこなかった。
焼き芋作戦も失敗。
じゃが芋が好きだからさつま芋にも興味持つかな…と思ったんだけど…。
あ、ジョミは甘いものはあんまり食べなかったな…。
その次の日の晩御飯は鶏のから揚げだった。
僕は台所で母さんが揚げたばっかりのアツアツをこっそり二個ほど掠め取ると、キッチンペーパーに包んで部屋に持って行った。
食欲をそそる香りが水槽の周りに充満する。
水槽の底に突っ伏していたジョミが、むく、と起き上がりこっちを見た。
「ジョミ、これ食べたことないだろ?美味しいんだぞ」
僕は揚げたての唐揚げにゆっくりかぶりついた。
ジョミの目が大きく見開かれる。
ぐっと歯を立てると香ばしくカリっとした衣の中からアツアツの肉汁がじゅっとこぼれた。
「うわあちあちあちあちっ…はふ…っ」
あふれる肉汁で口の中をちょっと火傷した。でも美味い。はふはふしながらゆっくり噛むと、サクサクと衣の砕ける音とジューシーな肉の味が口の中いっぱいに広がった。
ジョミがゴクリと唾を飲む。
「…美味しいなあ……いらないなら僕が食べちゃうけど、いいかなジョミ?」
そう言って残りの一個を食べようとした時、ジョミがふらふらと水面に浮き上がってきた。
「キースだめっ。それジョミのっ」
ぷかりと出てきた顔の前に唐揚げを差し出してやるとジョミは久しぶりに目をキラキラさせた。
普段ならイルカのようにジャンプして僕の手から食べ物をかっさらって行くのだが、さすがに数日の断食で弱っているのかそこまではしなかった。
「ゆっくり食べろよ。熱いからな」
ふうふうと少し息をかけて冷ましてやってから口の近くまで下ろしてやると、ジョミは唐揚げにぱくりと食らいつき、満足そうに笑った。
本当に久しぶりにジョミの笑顔。
よかった…
このまま何にも食べないで弱って死んじゃったらどうしようと本気で心配した……
気がつくと僕は笑っていた。一心不乱に唐揚げをほおばるジョミを眺めながら。
部屋の外から、ご飯よ、と僕を呼ぶ母さんの声。
わかったすぐ行くよ、と返事して、僕はジョミが綺麗に食べ終わるまで水槽の前でじっと待った。
何日も食べずにいたため小さくなった胃袋は、大きな唐揚げ一個でどうやらいっぱいになったらしい。
ジョミはお腹をさすりながら幸せそうな顔で水底に沈んでいった。
胸がじんわりあったかくなる。
唐揚げ作ってくれた母さんに御礼言わなきゃ…
そうだ、これまで…僕もジョミのことで頭がいっぱいで気持ちに余裕がなくて、冷たく当たってた…。
ちゃんと謝ろう。
ジョミ復活のきざし♪
表紙カラー絵は下塗りまで完了しました。影付け頑張ります。