「水槽の中のジョミ観察日誌」その13
11月5日(水曜日)晴れ
ちょっと熱っぽかったりもしたけど、三連休の間外に出ずゴロゴロ過ごしたせいか、体調はすっかり元に戻った。
あれから母さんとまともに話をしていない。
別にいまさらショックだ、とか傷ついた、とかいうわけじゃない。
なんとなく…そういう気分になれなかっただけだ。
で、今日の朝、僕に牛乳の入ったコップを渡しながら、母さんは溜息をついた。
「ずっと口をきいてくれないのね。まだ怒ってるの?」
「…?」
「……悪いと思ってるわ。でも、隠しててもしょうがないでしょ。たった一人の家族なんだし」
なんだか思いつめた横顔を見て気付いた。
僕が怒ってると思ってたのか…。
「別に…怒ってなんかないよ……」
「え?…」
「……ごちそうさまっ」
僕はパンを口に押し込み、牛乳で一気に流し込んで席を立った。
『隠しててもしょうがないでしょ』
あの人面魚が売れてしまったことをいつまでジョミに隠し通せるだろう…と日々悩んでいただけに、そっちの言葉の方が今の僕にはなんかグッサリきた。
そうだよな…いつまでも隠してても…しょうがないよな…
隠し事をしてるせいなのか、前みたいにジョミに笑ってやれない。
くりくりした緑の目から…つい逃げてしまうようになっていた。
もしかしてジョミが最近駄々をこねたりわがまま言ったりしなくなったのは…
…ジョミなりに気を遣っているのか?
その日の夜、僕はバケツにジョミを入れて風呂場に連れていった。
ジョミはシャワーが大好きだ。
こうして時々バケツごと風呂の隅にちょこんと置いてシャワーをかけてやるととても喜ぶ。
すっかりご機嫌な様子のジョミに僕はとうとうあのことを切り出した。
(………いない?ブルーが?…)
バケツの中ではじけていた笑顔がすっと引っ込んだ。
(会えないの?)
僕がこっくりうなずくと、ジョミの目ははりさけんばかりに見開かれ、あっというまに涙でいっぱいになった。
「ずっと黙ってて…ごめん、ジョミ」
まんまるな目からポロリと一粒涙がこぼれおちた。
そのままジョミはドブンとバケツの底に沈むと、つっぷしたまま浮かび上がってこようとはしなかった。
小さな背中は可哀想にぷるぷる震えていた。
ジョミがブルーに会いに行くのをいつもどんなに楽しみにしていたかよく知っているだけに、胸がえぐられるような気分だった。
ちょっと熱っぽかったりもしたけど、三連休の間外に出ずゴロゴロ過ごしたせいか、体調はすっかり元に戻った。
あれから母さんとまともに話をしていない。
別にいまさらショックだ、とか傷ついた、とかいうわけじゃない。
なんとなく…そういう気分になれなかっただけだ。
で、今日の朝、僕に牛乳の入ったコップを渡しながら、母さんは溜息をついた。
「ずっと口をきいてくれないのね。まだ怒ってるの?」
「…?」
「……悪いと思ってるわ。でも、隠しててもしょうがないでしょ。たった一人の家族なんだし」
なんだか思いつめた横顔を見て気付いた。
僕が怒ってると思ってたのか…。
「別に…怒ってなんかないよ……」
「え?…」
「……ごちそうさまっ」
僕はパンを口に押し込み、牛乳で一気に流し込んで席を立った。
『隠しててもしょうがないでしょ』
あの人面魚が売れてしまったことをいつまでジョミに隠し通せるだろう…と日々悩んでいただけに、そっちの言葉の方が今の僕にはなんかグッサリきた。
そうだよな…いつまでも隠してても…しょうがないよな…
隠し事をしてるせいなのか、前みたいにジョミに笑ってやれない。
くりくりした緑の目から…つい逃げてしまうようになっていた。
もしかしてジョミが最近駄々をこねたりわがまま言ったりしなくなったのは…
…ジョミなりに気を遣っているのか?
その日の夜、僕はバケツにジョミを入れて風呂場に連れていった。
ジョミはシャワーが大好きだ。
こうして時々バケツごと風呂の隅にちょこんと置いてシャワーをかけてやるととても喜ぶ。
すっかりご機嫌な様子のジョミに僕はとうとうあのことを切り出した。
(………いない?ブルーが?…)
バケツの中ではじけていた笑顔がすっと引っ込んだ。
(会えないの?)
僕がこっくりうなずくと、ジョミの目ははりさけんばかりに見開かれ、あっというまに涙でいっぱいになった。
「ずっと黙ってて…ごめん、ジョミ」
まんまるな目からポロリと一粒涙がこぼれおちた。
そのままジョミはドブンとバケツの底に沈むと、つっぷしたまま浮かび上がってこようとはしなかった。
小さな背中は可哀想にぷるぷる震えていた。
ジョミがブルーに会いに行くのをいつもどんなに楽しみにしていたかよく知っているだけに、胸がえぐられるような気分だった。