「水槽の中のジョミ・観察日誌 20」 僕の誕生日~前編
12月27日 土曜日(晴れ)
今日は僕の誕生日だ。
土曜日だから母さんは仕事が休みで、朝から家で大掃除してるんだけど、
鼻歌なんか歌ってなんだかとても機嫌がいい。
換気扇の掃除がそんなに楽しいのだろうか?と、
僕も網戸の掃除を手伝いながら不思議に思った。
「さ、今日は大掃除を済ませたら、キースの誕生日だから、おいしいものを食べに出かけるわよ。」
「え?別に出かけなくてもいいけど。寒いし。作るの大変だったら出前とかでいいよ。」
母さんはちょっと固まって、少し困った顔をしたが、ふう、と溜息をついていきなりこう言った。
実はね、会ってほしい人がいるの────取引先の人でね、───
いや、そういう日が来るかもしれないとは思ってた。母さんはまだ若い。
母さんが望んで相手がいい人だったらおとなしく祝福してあげよう、とか考えていたんだけど、実際に切り出されると…やっぱり動揺した。
「……なんで、わざわざ…こんな日に?」
「こんな日だからよ。あなたに会って…お祝いしたいって、どうしても」
参ったな。
母さんが誰かと幸せになるのは別に全然構わないけど、その知らない人と自分が親子として付き合わなければならないのは…あんまり考えていなかった。
というか、考えないようにしてたのかもしれない。
でもこんな些細な事で、これまで色々苦労してきた母さんを困らせたくはない。
わかったよ、と言うと、母さんは心底ホッとした様子で笑った。
そのあとは────
とにかく、驚きの連続だった。
普通の人じゃ、なかった。
まず、いきなり自宅の前にお迎え?のリムジン??らしき車がきて呆然。
(テレビドラマでしか見たことがないが多分あれがそうなんだと思う)
で、中から秘書(いや、もしかして執事???)らしき老人が現れてうやうやしくお辞儀をし、「ミシェル様、キース様、お迎えに参りました」とかなんとかのたまった。キース様って…ええ?
あれよあれよと車で連れて行かれたのは少し郊外にそびえたつ一件の高級レストラン。
中に入ると従業員総出でのお出迎え。
広いレストランは……どうやら貸切。
母さんは…どうやらこういう待遇にはもう驚かないらしい。
携帯の画面を見ながらにこにこと微笑んで「少し混んでて遅れたけど、もうじき着くんですって」とか言っている。
緊張して動揺しているのは僕一人なのか?
落ち着こかなければ…と、出された水をカラカラの喉に一気に流し込む。
ちょうどその時、「彼」が大きな声と共に僕らの前に姿を現した。
「ミシェ~ル!待たせたね!今日も美しい♪ おお、キース君、初めまして。私はグレイブ・マードック。グレイブと呼んでくれたまえ」
……呼べるか。
とにかく大きな声でよく喋る男だった。
自分の話に酔ってるようなところがある。
話は長いが、要約すると、全部母さんを褒め称える美辞麗句と自分の自慢話だ。
左の耳から右の耳へと話を流しながら、次々と出される料理を、一生懸命慣れないナイフとフォークで刻んでいると
「…だよね、キース君?」
と、いきなり話を振ってくるので油断ならない。
だが適当に相槌を打つと満足げに頷いているから、わりと単純な人なのかもしれない。
メインの肉料理の…牛のナントカいう部分の…ビール煮込みっていうのはトロトロですごく美味しかった。こういうのを食べると、一人ぼっちで留守番しているジョミのことを思い出す。あいつにも少し食べさせてやりたかったな。こんなところで残して持ち帰るなんてのは、無理っぽいけど。
ひととおりコース料理が済むと、照明が落とされた。
そして11本のローソクに火の点った長方形のばかでかいケーキがしずしずと登場する。
…一体何人で食うんだよ?結婚式か?と突っ込みたくなる。
室内の一角にスポットライトが当たると、いつの間にかそこには数人の歌い手らしき服装の女性が並び、壮大な「ハッピーバースデートゥーユー」のコーラスが始まった。
プロか?
この人たちはプロなのか?
いやもうただひたすら唖然とする他なかった。
「さあ、キース君、一息で吹き消すんだ!」
マードック氏の芝居がかった声ではっと我にかえる。
いろいろ思うところはあったが、黙って言われた通りにローソクを一息で吹き消した。
暗転した部屋に照明がパッとつき、周りのみんなが口々におめでとうと言いながら拍手をする。
いいのか母さん、なんとなく…この人に圧倒されて、雰囲気に流されてるんじゃないのか?
そう思って母さんをチラっと見たが、そんなことを聞くわけにもいかず僕はまたうつむいた。
「キース君、さあ。これは私からのプレゼントだよ。受け取ってくれたまえ」
その声を合図に従業員がワゴンでゆっくりゆっくりまるで割れ物を扱うように何かを運んでくる。
赤い布がかかっていて中は何かわからない。
さあ、とマードック氏に促され僕はおそるおそる赤い布をとり、息が止まりそうになった。
そこには、水がたっぷり入った金魚鉢があり、
ジョミと同じようにまるまるとした…アルビノ人面魚が眠っていた。
(後編へつづく)
年末のキースの誕生日にあわせ、お祝いがてらなんとしてでもアップしたかったんですが、時間的に無理でした。遅くなったけど、キースお誕生日おめでとう。
サイトも改装したい…うああ…時間がほしい。ひたすらほしい。(ほしけりゃ頑張って作れ)
でもずーっと変えたいと思ってた拍手絵、どりゃーっと気合入れて…それでも多分2時間ほどかかりましたが全部変えました。
ジョミブルなのかコレ?というイマイチ謎な小話に絵をちょこまか添えてます。
そんなこんなで、コメント、メールへのお返事、またちょっと遅れてます、すみません。
10日からはアンソロの原稿頑張ります。絶対に1月中に仕上げる。
できれば2月に編集作業をしながらもう一冊個人誌の原稿やりたいので…(死ぬぞ)
ああ、3月に向けてのやる気だけは…そりゃもう。めらめらめら~!
(……自家通販…3月頃になるかもしれません…土下座)
あ!冬コミ前に言い忘れていました…。
「遅青」(キスジョミ)様の新刊「くじら食堂」に、ブルーの遺影で参加させて頂いてます(笑)。
カプ関係なしに面白い本ってありますよね。まさにそんなお話。
漫画でも小説でも、とにかく笑いのセンスとストーリーの面白さは抜群ですよ~。
また続けざまに怒涛の勢いで後編もアップしたいと思います。
あああ、師走終わっちゃったけど師走ぶるーもちゃんと終わらせたい!
今日は僕の誕生日だ。
土曜日だから母さんは仕事が休みで、朝から家で大掃除してるんだけど、
鼻歌なんか歌ってなんだかとても機嫌がいい。
換気扇の掃除がそんなに楽しいのだろうか?と、
僕も網戸の掃除を手伝いながら不思議に思った。
「さ、今日は大掃除を済ませたら、キースの誕生日だから、おいしいものを食べに出かけるわよ。」
「え?別に出かけなくてもいいけど。寒いし。作るの大変だったら出前とかでいいよ。」
母さんはちょっと固まって、少し困った顔をしたが、ふう、と溜息をついていきなりこう言った。
実はね、会ってほしい人がいるの────取引先の人でね、───
いや、そういう日が来るかもしれないとは思ってた。母さんはまだ若い。
母さんが望んで相手がいい人だったらおとなしく祝福してあげよう、とか考えていたんだけど、実際に切り出されると…やっぱり動揺した。
「……なんで、わざわざ…こんな日に?」
「こんな日だからよ。あなたに会って…お祝いしたいって、どうしても」
参ったな。
母さんが誰かと幸せになるのは別に全然構わないけど、その知らない人と自分が親子として付き合わなければならないのは…あんまり考えていなかった。
というか、考えないようにしてたのかもしれない。
でもこんな些細な事で、これまで色々苦労してきた母さんを困らせたくはない。
わかったよ、と言うと、母さんは心底ホッとした様子で笑った。
そのあとは────
とにかく、驚きの連続だった。
普通の人じゃ、なかった。
まず、いきなり自宅の前にお迎え?のリムジン??らしき車がきて呆然。
(テレビドラマでしか見たことがないが多分あれがそうなんだと思う)
で、中から秘書(いや、もしかして執事???)らしき老人が現れてうやうやしくお辞儀をし、「ミシェル様、キース様、お迎えに参りました」とかなんとかのたまった。キース様って…ええ?
あれよあれよと車で連れて行かれたのは少し郊外にそびえたつ一件の高級レストラン。
中に入ると従業員総出でのお出迎え。
広いレストランは……どうやら貸切。
母さんは…どうやらこういう待遇にはもう驚かないらしい。
携帯の画面を見ながらにこにこと微笑んで「少し混んでて遅れたけど、もうじき着くんですって」とか言っている。
緊張して動揺しているのは僕一人なのか?
落ち着こかなければ…と、出された水をカラカラの喉に一気に流し込む。
ちょうどその時、「彼」が大きな声と共に僕らの前に姿を現した。
「ミシェ~ル!待たせたね!今日も美しい♪ おお、キース君、初めまして。私はグレイブ・マードック。グレイブと呼んでくれたまえ」
……呼べるか。
とにかく大きな声でよく喋る男だった。
自分の話に酔ってるようなところがある。
話は長いが、要約すると、全部母さんを褒め称える美辞麗句と自分の自慢話だ。
左の耳から右の耳へと話を流しながら、次々と出される料理を、一生懸命慣れないナイフとフォークで刻んでいると
「…だよね、キース君?」
と、いきなり話を振ってくるので油断ならない。
だが適当に相槌を打つと満足げに頷いているから、わりと単純な人なのかもしれない。
メインの肉料理の…牛のナントカいう部分の…ビール煮込みっていうのはトロトロですごく美味しかった。こういうのを食べると、一人ぼっちで留守番しているジョミのことを思い出す。あいつにも少し食べさせてやりたかったな。こんなところで残して持ち帰るなんてのは、無理っぽいけど。
ひととおりコース料理が済むと、照明が落とされた。
そして11本のローソクに火の点った長方形のばかでかいケーキがしずしずと登場する。
…一体何人で食うんだよ?結婚式か?と突っ込みたくなる。
室内の一角にスポットライトが当たると、いつの間にかそこには数人の歌い手らしき服装の女性が並び、壮大な「ハッピーバースデートゥーユー」のコーラスが始まった。
プロか?
この人たちはプロなのか?
いやもうただひたすら唖然とする他なかった。
「さあ、キース君、一息で吹き消すんだ!」
マードック氏の芝居がかった声ではっと我にかえる。
いろいろ思うところはあったが、黙って言われた通りにローソクを一息で吹き消した。
暗転した部屋に照明がパッとつき、周りのみんなが口々におめでとうと言いながら拍手をする。
いいのか母さん、なんとなく…この人に圧倒されて、雰囲気に流されてるんじゃないのか?
そう思って母さんをチラっと見たが、そんなことを聞くわけにもいかず僕はまたうつむいた。
「キース君、さあ。これは私からのプレゼントだよ。受け取ってくれたまえ」
その声を合図に従業員がワゴンでゆっくりゆっくりまるで割れ物を扱うように何かを運んでくる。
赤い布がかかっていて中は何かわからない。
さあ、とマードック氏に促され僕はおそるおそる赤い布をとり、息が止まりそうになった。
そこには、水がたっぷり入った金魚鉢があり、
ジョミと同じようにまるまるとした…アルビノ人面魚が眠っていた。
(後編へつづく)
年末のキースの誕生日にあわせ、お祝いがてらなんとしてでもアップしたかったんですが、時間的に無理でした。遅くなったけど、キースお誕生日おめでとう。
サイトも改装したい…うああ…時間がほしい。ひたすらほしい。(ほしけりゃ頑張って作れ)
でもずーっと変えたいと思ってた拍手絵、どりゃーっと気合入れて…それでも多分2時間ほどかかりましたが全部変えました。
ジョミブルなのかコレ?というイマイチ謎な小話に絵をちょこまか添えてます。
そんなこんなで、コメント、メールへのお返事、またちょっと遅れてます、すみません。
10日からはアンソロの原稿頑張ります。絶対に1月中に仕上げる。
できれば2月に編集作業をしながらもう一冊個人誌の原稿やりたいので…(死ぬぞ)
ああ、3月に向けてのやる気だけは…そりゃもう。めらめらめら~!
(……自家通販…3月頃になるかもしれません…土下座)
あ!冬コミ前に言い忘れていました…。
「遅青」(キスジョミ)様の新刊「くじら食堂」に、ブルーの遺影で参加させて頂いてます(笑)。
カプ関係なしに面白い本ってありますよね。まさにそんなお話。
漫画でも小説でも、とにかく笑いのセンスとストーリーの面白さは抜群ですよ~。
また続けざまに怒涛の勢いで後編もアップしたいと思います。
あああ、師走終わっちゃったけど師走ぶるーもちゃんと終わらせたい!